I.慢性肝炎について

定義

臨床的には6ヶ月以上の肝機能検査値の異常とウイルス感染が持続している病態をい い,組織学的には,門脈域にリンパ球を主体とした細胞浸潤と線維化を認め,肝実質内には種々の程度の肝細胞の変性・壊死所見を認める場合と定義されます.そして,その組織所見は線維化と壊死・炎症所見を反映させ,各々線維化(staging)と活動性(grading)の各段階に分け表記されます.

分類

新ヨーロッパ分類(1994年)

1994年に発表された新ヨーロッパ分類は,肝炎ウイルス性,自己免疫性,薬剤性,原因不明に病因を分類し,4段階のgradingと5段階のstagingに分けて記載されるようになりました.さらに,旧ヨーロッパ分類とHAI scoreとの対比も示されています(Hepatology 19:1513,1994).

grading

新ヨーロッパ分類 旧ヨーロッパ分類 HAI score

minimal chronic hepatitis

non specific reactive hepatitis / CLH / CPH

1 - 3

mild chronic hepatitis

severe CLH, CPH / mild CAH

4 - 8

moderate chronic hepatitis

moderate CAH

9 - 12

severe chronic hepatitis

severe CAH with bridging necrosis

13 - 18

 

staging

新ヨーロッパ分類 HAI score

0

no fibrosis

0

no fibrosis

1

mild fibrosis

1

fibrosis portal expansion

2

moderate fibrosis

 

 

3

severe fibrosis

3

bridging fibrosis

4

 cirrhosis

4

cirrhosis

 

新犬山分類(1996年)

1967年の第1回犬山シンポジウムで作成された肝組織診断基準はグリソン鞘を中心とした炎症反応により,活動性と非活動性を設けたところに特徴がありました.その後1979年,1994年に改変され,1995年の第19回犬山シンポジウムで検討された内容が,新犬山分類として公表されました.

staging:線維化の程度 activity:壊死・炎症所見の程度

F0:線維化無し

A0:壊死・炎症所見なし

F1:門脈域の線維性拡大

A1:軽度の壊死・炎症所見あり

F2:線維性の架橋形成

A2:中等度の壊死・炎症所見あり

F3:小葉の歪みを伴う繊維性架橋形成

A3:高度の 壊死・炎症所見あり

F4:肝硬変

     

新犬山分類 (1996)

 

HAI score(1981年)

慢性肝炎の病態を門脈域周囲,小葉内,門脈域の炎症の程度と繊維化の程度の4つのカテゴリーに分類し,半定量的にスコア化したものです(Hepatology 1:431,1981).

T U V W
bridging necrosis 小葉内の変化 門脈域の炎症 線維化
A. none 0 A.なし 0 A.なし 0 A.なし 0
B. mild 1 B. mild (<1/3) 1 B. mild (<1/3) 1 B.門脈域の線維増生 1
C. moderate (≦50%) 3 C. moderate (1/3-2/3) 3 C. moderate (1/3-2/3) 3 C.bridging fibrosis 3
D. marked (≧50%) 4 D. marked (>2/3) 4 D. marked (>2/3) 4 D.肝硬変 4
E. moderate + bridging necrosis 5  
F. marked + bridging necrosis 6
G. Multilobular necrosis 10

HAI score (histology activity index)

 

Scheuer(1991年)

スコアリングの内容を慢性肝炎の病態を門脈域周囲,小葉内,門脈域の炎症の程度と繊維化の程度の4つのカテゴリーに分類し,半定量的にスコア化したものです(J Hepatology 13:372,1991).

activity fibrosis
portal / periportal lubular
0 none or minimal none none
1 Portal inflammation Inflammation but no necrosis enlarged, fibrotic portal tracts
2 Mild piecemeal necrosis focal necrosis or acidophil bodies periportal or portal-portal septa but intact architecture
3 Moderate piecemeal necrosis severe focal cell damage fibrosis with architectural distortion but no obvious cirrhosis
4 Severe piecemeal necrosis damage includes bridging necrosis Probable or definite cirrhosis

The Scheuer System

 

II.肝硬変について

肝硬変とは

病理学的定義

高度の線維化,肝小葉構造の破壊とびまん性の再生結節形成

臨床

代償期と非代償期に分類され,非代償期には黄疸,腹水,肝性脳症などの症状が出現します.

成因

肝炎ウイルス,アルコール,自己免疫性肝炎,NASH などが成因と考えられています.2018年の肝硬変成因別調査では,C型肝炎ウイルスが48.2%,B型肝炎ウイルスが11.5%, アルコール性が19.9%,NASHが6.3%,胆汁うっ滞型が3.4%,自己免疫性が2.7%,うっ血性が0.4%,代謝性が0.2%,薬物性が0.06%,特殊な感染症が0.01%,原因不明が6.6%でした.

症状

肝性脳症(第12回犬山シンポジウム)

昏睡度T

精神症状:睡眠-覚醒リズムの逆転
                    多幸気分,ときに抑うつ状態
                    だらしなく,気にとめない態度
参考事項:retrospectiveにしか判定できない場合が多い

昏睡度U

精神症状:指南力(時,場所)障害,物を取り違える (confusion)
                    異常行動(例:お金をまく,化粧品をゴミ箱に捨てるなど)
                    ときに傾眠状態(普通のよびかけで開眼し,会話ができる)
                    無礼な言動があったりするが,医師の指示に従う態度をみせる
参考事項:興奮状態がない
                    尿便失禁がない
                    羽ばたき振戦あり

 昏睡度V

精神症状:しばしば興奮状態またはせん妄状態を伴い,反抗的態度をみせる
                    嗜眠傾向(ほとんど眠っている)
                    外的刺激で開眼しうるが,医師の指示に従わない,または従えない
                    (簡単な命令には応じえる)
参考事項:羽ばたき振戦あり(患者の協力が得られる場合)
                    指南力は高度に障害

昏睡度W

精神症状:昏睡(完全な意識の消失)
                    痛み刺激に反応する
参考事項:刺激に対して払いのける動作,顔をしかめるなどがみられる

昏睡度X

精神症状:深昏睡
                    痛み刺激にも全く反応しない

肝性脳症の新しい分類(Hepatology 35:716,2002)

A型(Acute)

急性肝不全でみられる脳症

B型(Bypass)

門脈〜大循環系バイパスによる脳症で,肝硬変などの肝疾患をともなわない

C型(Cirrhosis)

肝硬変と門脈圧亢進症,門脈〜大循環短絡路バイパスでみられる脳症

黄疸

血清ビリルビン値の上昇を認め,末期には間接ビリルビン値が優位となります.

腹水

underfilling 説

循環血漿量の減少に基づく腎での水・Na 貯留

overflow 説

腎での水・Na 再吸収亢進

難治性腹水

利尿剤抵抗性:大量の利尿剤でもコントロールできない腹水

利尿剤不耐性:副作用のため有効量の利尿剤を投与できない腹水

消化管出血

 

肝腎症候群

診断基準

1. 腹水を伴う肝硬変である

2. 血清クレアチニン値が1.5mg/dlを超える

3. 2日以上の利尿薬の中止とアルブミン容量負荷によっても血清クレアチニン値が改善しない

4. ショック状態ではない

5. 腎毒性薬が使用されていない

6. 腎実質障害が認められない(尿蛋白≦500mg/日,顕微鏡的血尿<50/hpf,エコー:正常)

分類

1型:急性腎障害および肝腎症候群の定義に合致

2型:肝腎症候群の定義は満たすが,急性腎障害の定義には一致しない

(急性腎障害:48時間以内に血清Cr≧0.3mg/dl or 7日以内に血清Cr≧50%)

治療

ノルアドレナリン+アルブミン製剤

肺障害

肝肺症候群

肺内血管の拡張や門脈圧亢進症による肺内動静脈シャントが原因となる肺の酸素化障害

門脈肺高血圧症

門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症

診断

末梢血

脾機能亢進に伴い汎血球減少がみられます.

生化学検査

合成能低下

血清アルブミン値の低下

コリン・エステラーゼの低下

血清総コレステロール値の低下

プロトロンビン時間の延長

ヘパプラスチンテストの低下

線維化マーカー

血中ヒアルロン酸,W型コラーゲン, プロコラーゲンVペプチド,Mac-2結合タンパク糖鎖修飾異性体,オートタキシンの上昇

肝硬変の判別式(Z≧0:肝硬変,Z<0:慢性肝炎):Z=0.124 × γ-globulin(%)+ 0.001 ×ヒアルロン酸(μg/l)- 0.075 × 血小板(万/mm3)- 0.413 × 性別(男:1,女:2)- 2.005(Hepatology Research 18:252,2000)

アミノ酸の組成変化

血漿中分岐鎖アミノ酸(BCAA)(ロイシン,イソロイシン,バリン)の減少と,芳香族アミノ酸(AAA)(フェニルアラニン,チロシン)の増加

Fischer 比(BCAA/AAA)やBTR(BCAA/チロシン)の低下

画像診断

エラストグラフィ

超音波エラストグラフィ

MRエラストグラフィ

内視鏡所見

静脈瘤内視鏡所見記載基準

占拠部位 Ls 上部食道まで認める静脈瘤
Lm 中部食道まで認める静脈瘤
Li 下部食道のみの静脈瘤
Lg-c 噴門部に限局する静脈瘤
Lg-cf 噴門部から穹窿部に連なる静脈瘤
Lg-f 穹窿部に限局する静脈瘤
Lg-b 胃体部にみられる静脈瘤
Lg-a 幽門部にみられる静脈瘤
形状 F0 治療後に静脈瘤が認められなくなったもの
F1 直線的な比較的細い静脈瘤
F2 連珠状の中等度の静脈瘤
F3 結節状あるいは腫瘤状の太い静脈瘤
色調 Cw 白色静脈瘤
Cb 青色静脈瘤
発赤所見 RWM red wale marking
CRS cherry red spot
HCS hematocystic spot
RC0 発赤所見を認めないもの
RC1 限局的に少数認めるもの
RC2 RC1とRC3の中間
RC3 全周性に多数認めるもの
Te telangiectasis
出血所見 出血中 gushing bleeding
spurting bleeding
oozing bleeding
止血後 red plug
white plug
粘膜所見    erosin
ulcer
scar

 

重症度

肝硬変の重症度を判定する方法としてChild-Turcotte 分類とその変法であるChild-Pugh 分類が用いられています.

表 Child-Turcotte 分類

  class A Class B Class C

血清アルブミン (g/dl)

>3.5

3.0-3.5

<3.0

血清ビリルビン (mg/dl) <2.0 2.0-3.0 >3.0
脳症 (-) T - U V - W
腹水 (-) 治療可能 治療困難
栄養状態 良好 ほぼ良好 不良

 

 

表 Child-Pugh 分類

  1point 2 point 3 point

血清アルブミン (g/dl)

>3.5

2.8-3.5

<2.8

血清ビリルビン (mg/dl) <2.0 2.0-3.0 >3.0
プロトロンビン時間 (%) >70 40 - 70 <40
脳症 (-) T - U V - W
腹水 (-) 治療可能 治療困難

Child A:5-6 points,Child B:7-9 points,Child C:10-15 points

 

また,肝機能と肝切除術式の選択基準として,日本肝癌研究会から肝障害度分類が提唱されています.

表 Clinical Stage

  I II III
腹水 (-) 治療可能 治療困難

血清アルブミン (g/dl)

>3.5

3.0-3.5

<3.0

血清ビリルビン (mg/dl) <2.0 2.0-3.0 >3.0
プロトロンビン時間 (%) >80 50 - 80 <50
ICG R15 (%) <15 15-40 <40

2項目以上が該当したstage

治療

抗ウイルス薬

B型肝硬変:エンテカビル

C型代償性肝硬変:エレルサ+グラジナ(販売中止)/ マヴィレット配合錠 / ハーボニー配合錠

                                            エプクルーサ配合錠+レベトール / ソバルディ

C型非代償性肝硬変:エプクルーサ配合錠(ウイルス排除率:90%)

栄養補給

たんぱく必要量:1.0- 1.5 g/kg

エネルギー必要量:25-30kcal/kg

脂肪必要量:総エネルギーの20-25%

腹水に対する治療

単純性腹水:感染や肝腎症候群を伴っていない腹水

難治性腹水:利尿薬抵抗性腹水/ 利尿薬不耐性腹水

図:腹水治療(肝硬変診療ガイドライン 2020)

塩分制限:<5-7g/日

利尿薬:スピロノラクトン / ループ利尿薬

バソプレッシン受容体拮抗薬:トルバプタン(サムスカ®)/ リキシバプタン(VPA-985)(Gastroenterol 124:933,2003)

バソプレッシン誘導体:terlipressin(Gastroenterol 122:923,2002)

α-交感神経作動薬:midodrine(Hepatology 28:937,1998)

アルブミン製剤

腹水穿刺排液

腹水濾過濃縮再静注法

アルブミンを節減できるものの,腹水エンドトキシンの濃縮という問題があります(肝胆膵 46:663,2003).

経頚静脈的肝内門脈静脈短絡術(TIPS)

経内頚静脈的にカテーテルを肝静脈まで挿入し,肝内で肝静脈と門脈のシャントを作成し,門脈圧を下げる方法です.肝性脳症,肝不全の進行,心不全の発現などが合併症として挙げられ,肝性脳症,心機能不全,70歳以上,Child-Pugh 12点以上がTIPSの禁忌とされています(Hepatology 38:258,2003).polytetrafluoroethylene-nitinol カバーステントの開存率は1年後84%,2年後98%と報告されています(Radiology 231:820,2004).

LeVeen shunt

腹水を頚静脈に注入する方法で,腹水は改善するものの,予後には影響しないとの報告があります(Am Surg 63:157,1997 ).

肝性脳症に対する治療

低蛋白食

40g/日以下

合成二糖類

ラクツロース,ラクチトール

経口難吸収性抗生物質

リファキシミン(リフキシマ®),硫酸カナマイシン,ネオマイシン,シプロフロキサシン,メトロダニゾール,ポリミキシンB,塩酸バンコマイシン

分岐鎖アミノ酸

亜鉛

カルニチン

IVR

経門脈的副血行路塞栓療法(PTO)

バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)

食道・胃静脈瘤に対する治療

輸血

Hb 8.0g/dl以下で輸血を考慮

1単位で0.6-0.8g/dl上昇

Shock index (脈拍/収縮期血圧)

Shock index

 

0.5

正常

1.0

1.0Lの体液喪失

1.5

1.5Lの体液喪失

2.0

2.0Lの体液喪失

薬物療法

内臓血管収縮(vasoconstrictor):バソプレッシン受容体拮抗薬,β-blocker,カルベジロール

門脈圧降下(vasodilator):亜硝酸薬,Ca拮抗薬,ソマトスタチン

その他:利尿剤,ARB,PPI

Sengstaken-Blakemore tube

内視鏡的静脈瘤結紮術

内視鏡的硬化療法

Interventional Radiology

経皮経肝的静脈瘤塞栓術(PTO:percutaneous transhepatic obliteration)

経回結腸静脈的塞栓術(TIO:transileocolic obliteration)

バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO:balloon occluded retrograde transvenous obliteration)

Lg-f,Lg-cf に適応

部分的脾動脈静脈塞栓術(PSE:partial splenic arterial embolization)

経頚静脈的肝内門脈静脈短絡術(TIPS)

手術(食道離断術,Hassab手術)

門脈血栓症に対する治療

ヘパリン,へパリノイド

低分子ヘパリン6カ月投与による完全再開通率が33.3%,部分的再開通率は50%と報告され(J Clin Gastroenterol 44:448,2010),ブタの小腸粘膜由来の低分子へパリノイドでは,奏効率は80%前後とされています(Hepatology 73:366,2021).

ワルファリン

PT-INR を2-3の範囲に保つことが望ましいとされ,奏効率は42-82%とされています(Hepatorogy 73:366,2021).

アンチトロンビン

プラセボ群に比して奏効率が高いとされています(55.6% vs 19.4%)(Hepatol Res 48:107,2018).

DOAC

リバロキサバンでの奏効率が100%であったとの報告があります(Vascul Pharmacol 113:86,2019).

肝移植

2004年1月より,成人の非代償性ウイルス性肝硬変に生体肝移植が保険適応となりました.

MELD score 15点異常が移植適応とされています.

MELD score = 0.957×Log e (creatinine mg/dl) + 0.378×Log e (bilirubin mg/dl) + 1.120×Log e (INR) + 0.6431

 

III. アルコール性肝障害について

概念

「アルコール性」とは,長期(通常は5年以上)にわたる過剰の飲酒が肝障害の主な原因と考えられる病態で,以下の条件を満たす者を指す.
1.過剰の飲酒とは,1日平均純エタノール60g以上の飲酒(常習飲酒家)をいう.ただし女性やALDH2活性欠損者では,1日40g程度の飲酒でもアルコール性肝障害を起こしうる.
2.禁酒により 血清AST,ALTおよびγ−GTP値が明らかに改善する.
3.肝炎ウイルスマーカー,抗ミトコンドリア抗体,抗核抗体がいずれも陰性である.

(アルコール医学生物学研究会編:「アルコール性肝障害診断基準」2011年版)

機序

空腸から吸収されたアルコールはアルコール脱水素酵素(ADH:alcohol dehydrogensase),ミクロソームエタノール酸化系(MEOS:microsomal ethanol oxidizing system),カタラーゼ等により酸化を受けますが,飲酒家ではMEOSが大きな役割をはたし,P4502E1がkey enzymeとなります.酸化を受けたアルコールはアセトアルデヒドとなり,アルデヒド脱水素酵素(ALDH:aldehyde dehydrogenase)によりさらに酸化されます. これらのフリーラジカルが肝細胞障害の要因と考えられますが,アセトアルデヒドの星細胞活性化や小腸の腸管バリア機能低下によるリポ多糖の門脈流入も肝線維化に関連すると考えられています.

診断

診断基準 (文部省総合研究A 高田班)

 アルコール性

1. 常習飲酒家(3合,5年以上)

2. 禁酒によるAST,ALTの著明な改善(4週で80単位以下,前値が100単位以下の時は50単位以下)

3. 肝炎ウイルスマーカーは陰性

4. 禁酒により次の検査のうち少なくとも一つが陽性

γ-GTPの著明な改善(4週で前値の40%以下,あるいは正常値の1.5倍以下)

腫大していた肝臓の著明な縮小(4週でほとんど認識できなくなる)

5. 以下のマーカーが陽性であればより確実

血清トランスフェリンの微小変異

CTで測定した肝容積の増加(単位表面積あたり720cm3以上)

アルコール性肝細胞膜抗体が陽性

血清GDH(glutamate dehydrogenase)とOCT活性(ornithine carbamoyltransferase)が上昇し,GDH/OCT比が0.6以上

%CDT値:carbohydrate-deficient transferrin/transferrin

 アルコール + ウイルス性

肝炎ウイルスマーカーが陽性でAST,ALTを除き上記の条件を満たすもの

(4週で120単位以下,前値が120単位以下の時は70単位以下)

アルコール性肝障害の病型および病理診断(日本アルコール医学生物学研究会,2011)

 アルコール性脂肪肝(Alcoholic fatty liver)

肝組織病変の主体が,肝小葉の30%以上(全肝細胞の約1/3以上)にわたる脂肪化(fatty change)であり,そのほかには顕著な組織学的な変化は認められない.

 アルコール性肝線維症(Alcoholic hepatic fibrosis)

肝組織病変の主体が,1)中心静脈周囲性の線維化(penvenular fibrosis),2)肝細胞周囲性の線維化(pericellular fibrosis),3)門脈城から星芒状に延びる線維化(stellate fibrosis,sprinkler fibrosis)のいずれか,ないしすべてであり,炎症細胞浸潤や肝細胞壊死は軽度にとどまる.

 アルコール性肝炎(Alcoholic hepatitis)

肝組織病変の主体が,肝細胞の変性・壊死であり,1)小葉中心部を主体とした肝細胞の著明な膨化(風船化,ballooning),2)種々の程度の肝細胞壊死,3)Mallory体(アルコール硝子体),および4)多核白血球の浸潤を認める.

a. 定型的:1)-4)のすべてを認めるか,3)または4)のいずれかを欠くもの

b. 非定型的:3)と4)の両者を欠くもの

背景肝が脂肪肝,肝線維症あるいは肝硬変であっても,アルコール性肝炎の病理組織学的特徴を満たせば,アルコール性肝炎と診断する.

 アルコール性肝硬変(Alcoholic liver cirrhosis)

肝の組織病変は,定型例では小結節性,薄間質性である.肝硬変の組織・形態学的証拠は得られなくても,飲酒状況,画像所見および血液生化学検査から臨床的にアルコール性肝硬変と診断できる.

 アルコール性肝癌(Alcoholic hepatocellular carcinoma)

アルコール性肝障害で,画像診断,または組織診断で肝癌の所見が得られたもので,他の病因を除外できたものをアルコール性肝癌と診断する.

治療

アルコール依存症の診断

 CAGE法

1. 自分の酒量を減らさなければいけないと感じたことがあるか?(Cut down)
2. 他人に自分の飲酒について批判され気に障ったことがあるか?(Annoyed by criticism)
3. 飲酒について罪の意識をもったことがあるか?(Guilty feeling)
4. 朝酒や迎え酒をしたとがあるか?(Eye-opener)

2項目以上陽性で依存症を疑う

 ICD 10法

1. 飲酒への強い欲望または強迫感
2. 飲酒開始,飲酒終了,飲酒量のいずれかのコントロール障害
3. アルコールを中止または減量したときの生理学的離脱状態
4. 耐性の証拠(同じ酔いを感じるための飲酒量の増大)
5. 飲酒により,他の楽しみや趣味に無関心になり,飲んでいる時間が多くなったり酔いが醒めるのに時間を要するようになる
6. 明らかに有害な結果が起きているのに飲酒を続ける

3項目以上が1年間dで該当すれば依存症と診断する

禁酒

薬物治療

 肝庇護薬

 高脂血症治療薬

 断酒補助剤

シアナミド:ALDH阻害薬で,肝障害のリスクあり

ジスルフィラム:ALDH阻害薬で,嫌酒薬として第一選択

アカンプロサート:断酒を目標とする場合の第一選択

ナルメファン:減酒を目標とする場合の第一選択

栄養療法

脂肪肝では摂取カロリーの適正化を図り,アルコール性肝炎や肝硬変では高蛋白・高エネルギー食を行なう.

IV.非アルコール性脂肪性肝疾患について

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease)

定義 (NAFLD/NASH 診療ガイドライン 2020)

非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)は,主にメタボリックシンドロームに関連する諸因子とともに,組織診断あるいは画像診断にて脂肪肝を認めた病態である.アルコール性肝障害,ウイルス性肝疾患,薬物性肝障害など他の肝疾患は除外する.NAFLDは,病態がほとんど進行しない非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver:NAFL,以前の単純性脂肪肝)と進行性で肝硬変や肝癌の発症母地にもなる非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)に分類される.
1.肝臓の脂肪沈着は,組織学的に5%以上を有意とする.
2.NASHは,病理診断による脂肪変性,炎症,肝細胞障害(風船様変性)が特徴である.
3.NAFLとNASHは,相互移行がある.NAFLの一部は,進行速度は遅いが線維化が進行することもある.
4.飲酒の上限はエタノール換算男性30g/日,女性20g/日が基準である.
5.薬物に起因する脂肪性肝疾患は,基本的に薬物性肝障害として取り扱う.
6.いわゆる小滴性脂肪変性を呈するライ症候群,急性妊娠性脂肪肝などは,NAFLDからは除外する.
7.NASH肝硬変の中に,進行とともに脂肪変性や風船様変性などのNASHの特徴が消失し,burned-out NASHを呈するものもある.

頻度

従来日本では10-30%の有病率とされてきましたが,最近の疫学調査(J Gastroenterol 47:586,2012 )でも,29.7%と報告され,欧米諸国(20-40%)よりやや低い数値です.

成因

肥満・高体重の頻度が高い地域およびPNPLA3(patatin-like phospholipase domain containing protein 3 )のリスクアリル保有率の高い地域で頻度が高いと報告されています(Gastroenterol Hepatol 15:11,2018).

診断

NAFLDは画像もしくは組織学的に肝臓に脂肪蓄積(肝細胞の5%以上)を認め,アルコール,薬剤,遺伝子疾患などによる二次性脂肪肝を除外されたものとする.(日本消化器病学会・日本肝臓学会 NAFLD/NASH 診療ガイドライン2020).

 血液検査

Type IV collagen 7s,WFA-M2BP(Wisteria floribunda agglutinin-positive Mac-2 binding protein)の併用で96.5%の陰性的中率が報告されています(J Gastroenterol hapatol 33:1795,2018).

 超音波検査

B-mode による高輝度肝,肝腎コントラスト陽性,肝脾コントラスト陽性,深部減衰ならびに門脈・肝静脈の不明瞭化が脂肪肝の所見とされています(Am J Gastroenterol 102:2708,2007).transient elastgraphy では,高度線維化および肝硬変診断における感度は 85%および92%,特異度は85%および92%と報告されています(Aliment Pharmacol Ther 39:254,2014).

 MRI 検査

MRI による proton density fat fraction 値と肝脂肪化との相関が報告されています(Gastroenterology 150:626,2016).また,MRI による肝線維化評価は最も診断精度が高いとされています(Clin Gastroenterol Hepatol 17:630,2019).

 NAFLD fibrosis score(NFS)

1.65 + 0.037 × age (years) + 0.094 × BMI (kg/m2) + 1.13 × Impaired fasting glucose/diabetes (yes = 1, no = 0) + 0.99 × AST/ALT ratio − 0.013 × platelets (×109/l) - 0.66 × albumin (g/dl) (BMC Gastroenterol 12:2,2012)

 FIB-4 index

年齢 × AST(IU/l) / 血小板数 (×109/l) × √ALT (IU/l)

FIB-4:2.67 をカットオフ値とした場合,高度線維化の感度は26.6%,特異度は96.5%と報告されています(Hepatology 66:1486,2017).

NASH

定義

Ludwig らにより提唱された概念(Mayo Clinic Proc 55:434, 1980)で,脂肪肝に炎症,線維化が加わった状態です.非アルコール性脂肪肝(NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease)には脂肪肝とNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)があり,比率は9:1といわれています.両者は経過が異なるため(NASHは病気が進行性)鑑別が必要であり,トランスアミナーゼの上昇,血小板低下,線維化マーカー上昇などが鑑別点としてあげられていますが,絶対的なものではありません.確実な方法は侵襲的ではありますが肝生検による組織診断です.

成因

脂肪肝が生じるfirst hit に別の機序によるsecond hit が加わりNASHが発生するとするtwo hits theory が提唱されています(Gastroenterology 114:842,1998 ).first hit として,遊離脂肪酸の肝細胞への取り込み増加,肝細胞への糖質流入増加に伴う脂肪酸合成促進,肝でのVLDL合成障害と放出低下などがあげられています.second hit としては,酸化ストレス,フリーラジカルの発生,脂質過酸化,エンドトキシンによる炎症性サイトカインの誘導,ミトコンドリア機能不全,アデポサイトカイン分泌の異常などが想定されています.

診断

 組織学特徴

小葉中心性の大滴性の脂肪沈着を認め,脂肪嚢,脂肪肉芽腫も検出される.

小葉内に巣状壊死が検出される.

肝細胞の風船様膨化,核の空胞化,マロリー体の出現をみる.

肝細胞周囲線維化,中心静脈周囲線維化,星茫状線維化,噴水上線維化などがみられる.

図 steatohepatitis

 Powell の診断基準

1. 非飲酒者( アルコール摂取量が男性:30g/日以下,女性:30g/日以下 )

2. 肝組織像が steatohepatitis

3. 他の肝疾患の除外

 Matteoni の分類 (Gastroenterology 116:1413,1999)

 

組織所見

診断

Type 1

脂肪沈着のみ

fatty liver

Type 2

脂肪沈着+小葉内炎症

fatty liver

Type 3 脂肪沈着+風船様変性 NASH

Type 4

type 3+肝線維化またはマロリー体

NASH

 Brunt の分類 (Semin Liver Dis 21:3,2001)

活動性

 

脂肪化

風船様腫大

小葉内炎症

門脈域炎症

Grade 1 (mild)

-1/3

種々の程度に認める

散在性で軽度

認めない - 軽度

Grade 2 (moderate)

1/3 - 2/3

明らかに認める

慢性炎症所見

軽度 - 中等度

Grade 3 (severe)

1/3 -

高度に認める

急性および慢性炎症所見

軽度 - 中等度

病期

Stage 1 perivenular / perisinusoidal / pericellular fibrosis
Stage 2 Stage 1 + portal fibrosis
Stage 3 bridging fibrosis
Stage 4 肝硬変

 Kleiner-Brunt の分類(NAFLD activity score) (Hepatology 41:1313,2005)

線維化

Score

脂肪化

小葉内炎症 (200×視野あたり)

風船様腫大

0

<5%

なし

なし

1

5 - 33%

<2病巣

少数

2

34 - 66%

2 - 4病巣

多数

3

>66%

>4病巣

 

0 - 2:NAFL / 3-4:border line / 5-8:NASH

病期分類

Stage

所見

 0 none
1 1a mild zone 3 perisinusoidal fibrosis
1b moderate zone 3 perisinusoidal fibrosis
1c portal / periporatal fibrosis only
2 zone3  perisinusoidal and portal / periporatal fibrosis
3 bridging fibrosis
4 cirrhosis

 FLIP(fatty liver inhibition of progression)algorithm (Hepatology 60:565,2014)

 肝生検が望ましい状態

高齢

高度肥満

糖尿病

AST / ALT1

血小板減少

肝機能低下

線維化マーカー上昇

治療

 脂肪肝に対して

体重減少

ベザフィブラート :AMPキナーゼを介する機序が想定されています(Lancet 354:1299,1999).

スタチン:肝組織および血液生化学の改善効果が報告されています(J Hepatol 63:705,2015)

 酸化ストレスに対して

瀉血

ビタミンE:小児NASHにおける血液生化学改善効果が報告され(J Pediatr 136:734,2000) ,メタ解析で肝組織学的にも有用性が報告されています(Nutrition 3:923,2015).

silymarin(マリアアズミ)

N-acetylcystein(Gastroenterology 118:A1444,2000)

 栄養補助剤

カルニチン(Am J Clin Nutr 49:618,1989)

コリン(Hepatology 22:1399,1995)

Betaine(Am J Gastroenterol 96:2711,2001)

 肝庇護剤

ウルソデオキシコール酸(Hepatology 23:1464, 1996)

強力ミノファーゲンC

ポリエンホスファチジルコリン(EPL)

 糖尿病薬

ピオグリタゾン:チアゾリジン誘導体で PPARγ を介する機序が想定されています (N Eng J Med 362:1675,2010).

メトホルミン:AMPキナーゼ,TNF-αを介する機序が想定されています (Lancet 358:893, 2001).

トログリタゾン :肝障害の副作用のため販売中止(Am J Gastroenterol 96:519, 2001).

SGLT2阻害薬:肝脂肪化および血液生化学の改善効果が報告されています(Hepatol Res 49:64,2019).

GLP-1アナログ製剤:リラグルチドの肝組織学的および血液生化学的有用性が報告されています(Lancet 387:679,2016)

 アンジオテンシンII 受容体拮抗薬 およびアンジオテンシン変換酵素阻害薬

NASHに対するロサルタンの有効性が報告され(Hepatology 40:1222,2004),エナラプリルもNASHの肝線維化抑制効果が報告されています(Atherosclerosis 218:378,2011).

 外科的治療

BMI32で生活習慣病を合併するNAFLD が保険適応となりますが,本法で胃縫縮術のみ適応が認められています.

図 治療フローチャート(日本消化器病学会・日本肝臓学会 NAFLD/NASH 診療ガイドライン2020)

 

予後

NASHの20%が10年間で肝硬変に移行し (Hepatology 35:746, 2002),10年間に5%の肝細胞癌の発症(Hepatology 64:773, 2016)が報告されています.

 

V.薬剤性肝障害について

定義

薬物治療を継続する過程において,肝障害として出現する副作用です.

成因

抗菌薬や抗生物質が最も多く(19%),鎮痛下熱剤(18%),健康食品(14%)が続きます.発症機序は,薬物自体またはその代謝物が肝毒性を持ち用量依存型である中毒性と,特異体質性の2種類があります.

診断

薬物服用と肝障害の経過とが時間的に関連することと,他の肝障害の除外診断が基本です.

表 DDW-J 2004 薬物性肝障害ワークショップのスコアリング(肝臓 46:85,2005)

治療

起因薬物の同定と投与中止

薬物療法

 肝細胞障害型

強力ミノファーゲンC® の静注またはウルソデオキシコール酸の経口投与(日消誌 100:659,2003).アセトアミノフェンによる急性肝不全の場合は,服薬10時間以内であれば,アセチルシステインを初回140mg/kg,以後4時間ごとに70mg/kgを17回経口投与.

 胆汁うっ滞型

ウルソデオキシコール酸が第一選択(日消誌 85:2420,1988)で,遷延する場合はステロイドが使用されます.